家事労働とジェンダーを考える授業

横浜桐蔭学園 佐藤 誠紀

12月のHELCYで、授業実践の発表の機会を作っていただきありがとうございます。今回の実践は、教育図書の資料集(家庭科55 P14)からヒントに作っていった教材です。本校の授業で長く実践していきたい教材です。

1.授業の概要

 高校の家族領域の学習の初めに、家事分担の授業を行います。大人2人・子ども1人の家族の家事(アエラのWEB記事の「家事育児100タスク表で夫婦の完全平等分担は可能か?」を参照)を、隣の生徒とペアになり分担します。ペアは、異性の場合、同性の場合、ペアがいないシングルの場合など、様々な家族になります。さらに、くじ引きで収入と残業時間を決めます。(年収と平均残業時間のデータをもとに作成)収入が多いと家にいる時間が少なくなり、収入が少ないと家にいる時間が長くなるくじになっているので、家事ができる時間帯と出来ない時間帯を相手の都合を考えながら100項目の家事が書かれたワークシートに分担していきます。  

 最後に家事分担時の工夫を発表し、学習のまとめにします。特に、収入が少ないペアや高収入ペア、一人で頑張ってやりくりした生徒の発表を聞き、収入に伴う労働条件によって家事労働の分担が変化することに気づく授業になります。  

 家庭内での役割は流動的な側面もあります。「○○だから家事をするべき」という義務ではなく、将来直面する家事の問題に生徒が対応できる力が大切だと思い、性別役割分業意識などの学習の前にこの授業を行っています。  

2.HELCYで模擬授業を行ってみて

 参加されたN先生からは、年収の設定を日本の人口のリアルな割合でするのも面白いかもしれないというアイディアもいただきました。そうすることで、子どもがいる多くの世帯が、どのような経済状況で暮らし、今何を欲しているのかが、より明確にわかる教材になることを実感しました。また、保育の授業でこの教材を使うこと、または金融教育の授業にもつながりを持たせることができるかもしれません。学習のポイントが変化させられることは、この教材の柔軟性でありますが、逆に落としどころがいろいろ変わってしまうということでもあるので、弱点でもあるのかもしれません。  

 小学生や中学生には難しい課題設定で、再考が必要であることも確認できました。学齢が低い場合は、自分達の家で実際に行われている家事労働の可視化をすることが家事分担の前に必要というご指摘はもっともだと思います。

3.おわりに

 初めて大人(家庭科関係者の方々)に授業をするということで、授業の核になるペアワークの反応が高校生とは違いました。そこに教材の可能性を感じました。S先生のご指摘にあったように、大学生対象でも授業ができます。一方、実際の家庭でこのワークをするのは、ちょっと過酷かと思いました。この表のモデルになりきってこそ、意味のある学習になると思います。そう考えると、社会教育のプログラムとして企業内での研修などでも、やってみると面白いと思いました。  

 自分の生活を振り返ると、子どもを通して繋がった家族や地域を見て、家庭科を社会人が学ぶ機会を作る必要を感じるようになりました。今回の発表を通して、「中学・高校だけではなく、社会教育としての家庭科の広がりを作る教材は何なのか?」→「もうそろそろ、大人の家庭科やってみろ」という課題をもらったように感じます。