「避難所デザインをしよう」の研修会報告を終えて
麻布中学校・麻布高等学校 小山田 祐太
研修会では、防災・減災を扱った授業の概要の紹介とともに、HELCYの参加メンバーにも実際に避難所計画シミュレーションを行ってもらい、教材の内容や観点、課題点などについて検討を行った。ここでは、報告内容の概要と、研修会での意見をふまえての発表者の気づきや課題点を報告する。
1.授業実践概要及び研修会での報告・活動内容
本校では、家庭基礎カリキュラムの一番最後に、既習内容もふまえた生活者の多様な視点をとらえることができるような学習として、避難所計画シミュレーションを行っている。時間数は計3時間で、災害に関する基礎知識、都市部における災害リスクの特徴、避難所の確保や、互助・共助的運営の必要性について説き(1時間目)、それらをふまえて避難所計画シミュレーションをグループ形式で実施する(2時間目)。最後にグループでの避難所デザインの発表と講評を行い(3時間目)、これまでの家庭基礎の学習内容を総合的に振り返ることができるようなものとしている。教材の元となる案は書籍を参考としたが、そのまま用いるのではなく、本校の生徒観に照らしてシミュレーションしやすいように、自校の体育館を図面化してワークシートにしたり、避難してくる人の設定要件やグループ数も生徒の取り組み方に合わせて調整している。
今回の研修会では、全体概要の紹介と、授業の2時間目に相当する避難所計画シミュレーションを参加メンバーに実施してもらい、感想・意見を頂いた。
2.研修会での気づき
これまでの授業をしてみて感じた課題点は、都度解消をしてきたつもりである。例えば避難者の設定要件を生徒がより考えやすい形に修正したり、「自分と家族を含めて避難する」という設定要件に対して、プライバシーに配慮して実施できる形態にしたりと、ワーク形式については適宜工夫と修正を行ってきた。それでも、研修会の場でオープンにすることで、普段の授業だけでは出てこない様々な気づきが得られた。まず、多様で公平な視点で考えることを再認識した点である。例えば、着替え時のプライバシー必要性は認識できていたが、その重要性は生徒も私自身も(男性自認がほぼほぼゆえに)見落としていた感が否めない。充分気をつけていたつもりだったが、誰しもがアンコンシャス・バイアスもっているという点を改めて確認した。細やかな部分で留意したい。
もうひとつは、ワーク内容の拡げ方と評価の観点についてである。分野横断的な学習である点と、議論やアイデア出しにはある程度慣れている生徒を対象とした点から、グループワークの内容は自由度が高めであったが、評価観点の欠如をご指摘頂いた。確かに現状では、グループワークの評価軸が定まりにくいオープンエンドな着地になりかねないだろう。例えばで、多様な避難者への配慮点をしっかりまとめる、配置上の工夫点を、数を決めて洗い出すなど、評価軸を鑑みたグループワークの提示内容を精査したいと感じた。
3.最後に
避難所という、多様な人々がコンパクトに集まる中で、「よりよい生活を送る配慮点」を模索することは、災害時の一時的な観点にとどまらず、普段の暮らしにつなげて、多様な人々への配慮のまなざしを養うことができることだと考えている。そうした想いもあり、最後のまとめとして自由に考えてもらいたいというスタンスで実施している。 本年度も最後のまとめとしてこの授業を実施する予定である。今回得た知見を活かし、さらに工夫を凝らした内容としていきたい。また、本報告を受けて、カリキュラム上の位置づけや、生徒の様子、校種や地域特性をふまえて、他の学校でもそれぞれに適する工夫をした、類似内容の実践が行われることを期待する。参加したメンバーのみなさまに感謝します。ありがとうございました。
〈教材の参考とした書籍〉冨田道子(2020).「UD授業から減災授業へ」一藝社